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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

早口に、

「文明社から出る全集のお金で行くことになったんだから、その方は心配して頂かなくていいの」

と云った。

「旅券の裏書のことで、お願いに来たのよ」

「へえ……」

まだ半信半疑という目の色で、伸子を見ながら多計代はダイアモンドの指環のはまった手で自分の鼻のわきを撫でるようなしぐさをした。

「――それで……いつ立とうというの」

「それゃ、裏書ができしだいだわ」

「もちろん吉見さんも一緒なんだろう?」

伸子が口を開かないうちに、泰造がわきから、

「それゃそうでなくちゃ、伸子が困りますよ」

と云った。

「あのひとはロシア語が専門なんだろう」

「ええ。吉見さんは事務所の方へ伺いますって。よろしくって……」

多計代は、黙って考えていたが、

「まあ、伸ちゃんも、そうやって自分の力で行けるというなら、どこへ行くのも御自由だし、いろいろのところへ行ってみるのもためになることなんだろう。それゃ結構だけれどもね……」

一転して、多計代は事務的な調子で、裏書について、伸子が父に求めている援助の内容をきいた。

「なるほどね、それで大分話がわかってきた……なんだろう? その裏書のことでは、吉見さんの分もいるんだろう? どうせ伸ちゃんのことだから……」