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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

えらくなるには、ばかのまねしなければだめです。金のことなんかわからないふりして。――どういう気持で砂場嘉訓は、伸子に、彼のこの秘密をもらしたのだろう。この言葉の中に、伸子は砂場嘉訓のかくされた辛酸と悲劇とを感じた。日本とまるで社会の発達の程度も経済の事情もちがうロンドンで、パン、ミルクということしかしらなかった貧しい東洋の画学生だった砂場嘉訓が、イギリスでも一流のアカデミシァンとして暮すようになるまでにへた苦心が、この奇怪な人生哲学のうちにまざまざと語られている。イギリスの格式ばった中流人たちや上流の絵画愛好者の間に存在の道をきりひらき、才能をみとめられてゆくために、砂場嘉訓は洋画の技法に、日本画の筆法を活用して新機軸をあみ出したばかりでなく、むこうの人々にとっては珍らしい東洋の画家という面を強調し、伝統のふかい欧州上流人の生活様式に不案内の弱点を、かえって、おもしろさに転化させて生きて来たのだと思われた。

金のことなんかわからないふりして――。そういう言葉は金のために砂場嘉訓がどんな苦しい経験をしたかということを、逆に伸子に考えさせた。画商からまるではたかれた金をあてがわれたとき、肖像画の依頼者から画料について、みみっちいほのめかしをされる都度、日本の画家砂場嘉訓は、イギリスのむずかしい金のことはわから