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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
そうではあるが、素子が格別疑問もなく習慣としているおつまさん仲間との饒舌な、馬鹿笑いの多い遊びづき合いにも、とけこめなかった。すぐ飽きて倦怠した。
「おつまさん、ここへ泊めなけれゃいけないのかしら」
気がかりそうに伸子は、くりかえし質問した。
「泊るのはどうせよそだろう、あのひとのことだもの。一人で来るんでもあるまいし、……だけれど、来たら放っちゃおけないよ」
この家へ、おつまさんが京都からもって来るある空気が吹きとおるのだろうか。高台寺で、素子が酔った晩、桃龍たちがよってたかって素子に、里栄の派手な青竹色の縞お召の着物をきせ、紅塩瀬に金泥で竹を描いた帯をしめさせた。浅黒い棗形の素子の白粉気のない顔は、酔ってあか黒く脂が浮いて見え、藍地に白でぽってり乱菊を刺繍した桃龍の半襟の濃艶な美しさは、素子の表情のにぶくなった顔を、ひときわ醜くした。素子は、なんえ、これ! かわいそうなめにあわさんといてくれ、頼むぜ、といいながら、その青竹色の着物の褄をとってはしごをよろめき下り、せまいその家じゅうをぞよめきまわった。「黒んぼの花嫁! 黒んぼの花嫁!」そう叫んでさわいでいる桃龍たちの声を二階でききながら、伸子は、とりちらされた広間の床の間のかまちにぽつねんと一人腰かけていた。