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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
素子が京都へ立つまでの数日の宿として、そこがきめてあった。いまは空屋となった家のなかから丁寧に雨戸をしめて戸締りし、風呂場のくぐりから外へ出た。そこへも、えび錠をかけるとよの手もとを見まもりながら、伸子はいよいよこうして日本を離れようとしている自分を痛感した。伸子を、日本にひきとどめるようなものはなに一つない。この家の生活にしろ、どこでの生活にしろ。――しかし、そこを離れるための準備ばかりがされているいま、そのあわただしさと全く事務的ないそがしさをとおして、これまでの生活のすべてがそこにあった倦怠や憎悪さえひっくるめて一つの忘れがたいものとして迫った。それを思い出とよぶにはまだあんまり近すぎ、しかも、もうはっきり自分たちの生活する場所ではなくなったものとして、今朝まで住んでいた家に最後の戸じまりをして去るこころもちは、深く伸子をうごかした。
伸子たちが戸じまりをしている間に素子が近所別れのあいさつにまわっていた。それをすまして帰って来るのを葉の黄色い秋のポプラの樹の下で待ち合わし、やがて、三人はそれぞれにかさばった風呂敷をもって、郊外電車の停留場へ出た。