轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

橋本と染めだしたのれんの下ったうなぎやの横から、不意に佃がそこの歩道へ出て来たとしても、そして、タクシーの窓ガラス越しに佃の蒼めな顎の大きい顔が伸子の顔と向いあったとしても伸子はクッションにもたせた自分の頭は動かさなかったろう。その界隈の風景はその時代の生活の苦しさとともに伸子の過去のなかにくっきりと凝固していて、きょうの感情に語りかけてくる生命をもっていない。佃とわかれてからあしかけ四年たっていたが、伸子は、どこでも、一ぺんも、佃に出会ったことはなかった。

街々をつきぬけいくつもの角を曲って自動車が走ってゆくにつれて、青山一丁目の街の光景は次第に遠くにおきやられたが、うなぎやの手前に、青塗りの妙にとび出した露台をもった氷問屋がいまだにあったのを思い出し、伸子はふと、あれは本当はどういうことだったのだろうと思った。佃との生活がだんだん破局を重ねて来て、伸子は佃の家から逃げ出すことが多くなった。東北の田舎にいた祖母のところや、湘南にいた従妹の冬子のところへ。そういう一つの逃げ出しから動坂のうちへ帰って来たとき、多計代が一種の目つきをして、

「佃さんてひとも、あれで案外不自由なんかしていないんだろう」