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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「だって、わたし、このかたにまだ一遍も会っていもしないのに……」

「そりゃそうだけれども、この写真をみてさ。伸ちゃんは、どう感じるかって、いうのさ」

伸子は、そういう多計代の詮索を、苦しく感じた。伸子は、恋愛の思いを知っていた。結婚した夫婦生活の明暗もある程度はわかっている。いまは女友達とひとり暮しをしているけれども、伸子は母のききかたに、女としての感情の底流れを感じ、それは成長した娘としての伸子の心に苦しいのであった。

「旦那さまが好きらしいし、ある意味で美人だし……問題はないじゃないの」

「問題になんかしているんじゃないけれど……」

多計代は、ふっさりとして大きい、独特に古風な美しさのあるひさし髪を傾けて、なお写真をみていたが、

「純子さんて人は、おかしな人だねえ。時々ひどいヒステリーをおこすんだってさ。越智さんが出かけようとすると、出すまいとして玄関にはだしでとび下りて、格子に鍵をかけてしまったりするんだそうだよ。まるで気違いみたいになるときがあるんだって」

誰から、どんな風に多計代はそういう話をきかされるのだろう。それを思うと、伸子は夫婦の間のそんな話や、越智と多計代とが純子についてそういう話をする情景そのものにいとわしさを感じた。