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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

おとといは、薫りの雲がみちみちているように感じられた温室の内部が、きょうは花のつくられている温室、という現実的な手堅い感じで支配された。

保は、

「シクラメンはおやりになりませんか」

ときいた。

「今年はやりません。鉢ものですしね」

「ああ、そうね」

そういう問答の内容は伸子にわからなかった。

わからないことだらけの竹村と保の話を、伸子はむしろ満足してききながら、長いこと温室にいた。保が辞退するので、住居の方へはよらないで、帰途についた。

平静な保の表情から、伸子は、温室を見たことがうれしかったのか、それほどでもなかったのか、よくわからなかった。

「保さん」川ぶちの道を歩きながら、伸子がきいた。「どうだった? あんなの平凡?」

「僕、よく出来ていると思う。――でも、あれだけつくるのは、割合やさしいよ」

保は、先頃、父につれられて大磯のある富豪の温室を見て来た話をした。そこでは主としてメロンと蘭などがつくられていた。

「姉さん、メロンておもしろいよ、むずかしいけれど。僕だったらメロンやる」

円天井の大温室の中で、網に吊られた大小のメロンが、熟す順に番号をつけられて青く美しくみのっていた光景を、保は活溌に話してきかせた。