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ふたりいるとき
二人いるとき
宮本 百合子
「新女苑」1938(昭和13)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,672 字 · 18 页
その自動車会社がしっかりしているので目前の月給は悪くないのであったが、小枝子は或る時不図そのことに気がつくと不安になって、新劇の或る女優の後援会で知りあった多喜子のところへ洋裁を習いに来はじめたのであった。今では、ひとのものも縫えるところまで腕がついているのである。
独身で勤め人の小枝子が加わると、話題もおのずからひろがって、三人の女は手や足先を動かしながら、その後援会に二人が加わっている女優の演じた田舎の庄屋のおかみさんが粋すぎたなどという話も出た。仕上げミシンの急所のところで、多喜子が、
「あ、ちょっと、そこはこうした方がいいんじゃないかしら」
自分でミシンを踏みかけたら、小枝子が、
「私、下ふみますから……」
多喜子を軽く押しのけるようにした。
「あら。大丈夫なのよ、今は。自分の仕事だってしている位なんですもの」
「ええ、でも。今度は本当にうまくお生みんならなけりゃいけないんですもの」
何か思いがけなかったような女同士の温い心づかいが小枝子の声や身ぶりの中に感じられて、多喜子は却って言葉がつまった。去年初めて姙娠したとき、多喜子は自分の健康に自信をもちすぎていて、テニスをしたり自転車にのったりしたために流産をした。