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ふたりいるとき
二人いるとき
宮本 百合子
「新女苑」1938(昭和13)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,672 字 · 18 页
「ほう」
また咳払いをする声がする。
「はい、どうぞ」
「やがて尚子が自分から幸治のために襖をあけてやった。
「や、しばらくでしたね」
袷の対を着て、きっちり髪をわけている幸治は、武骨っぽいずんぐりした体つきに似合わない軟かい笑いをたたえて、テーブルのところへゆっくりした動作で坐った。
「随分しばらくお目にかかりませんでしたね」
「ついかけちがって……」
多喜子はほかに云いようもないのであった。
「おかぜなんですって?」
すると桃子が、
「やー、お兄様」
とはやし立てた。睨むような眼差しをするうちにも尚子は笑いを抑えられない風である。飲みすぎか、怠けぐらいのところらしい幸治がにやにやしながら、
「貧乏ひまなしでやっていますとたまには、病気もなかなかいいところがあるですよ」
エアシップの灰をおとしながらしかつめらしく云った。
「妙なもので公然と欠勤した日の味はまたちがいましてね、勤人根性ですね」
増田の父親の経営している会社の子会社へ、若専務として幸治はオースティンで通っているのであった。
苦労のない三人がストウブのまわりで顔をつき合わせて何や彼やと、やや倦んじたところへ多喜子が来たのも、小さい新しい一つの刺戟であるというらしい暢びやかな、とらえどころのない雰囲気である。