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にじゅういち
二十一
「現代文学 第六巻第九号」1943(昭和18)年8月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,877 字 · 21 页
占師にかけ合って貰いたい。ついては是非一度訪ねてきてくれ、と書いてある。仕方がないので教会を訪ねて行ったが、もう印象が殆んどないけれども、薄暗い六畳ぐらいの小部屋が幾つかあって、その一つで婆さんと会った。殆んど人の気配を感じない建物であった。婆さんはシクシクとシャクリあげながら、いつ終るともないグチ話。僕は一段落つくのを待ち、そのとき迄は全然念頭にもなかったことを急に思いついて言い、婆さんの呆気にとられるのを尻目にサッサと帰って来たのであった。僕は言った。お婆さん。あなたは世の中で一番気楽な隠れ家の中にいるのです。あなたのような方にとって、宗教ぐらい誂え向きな住みかはない。俗念をすてなさい。三十円ぐらいの金は有っても無くても同じことです。執着をすて神様にたのんで大往生をとげなさい。さよなら。
婆さん訪問は毎日夜間の行事であったが、昼は昼で精神病院へ辰夫という友達を毎日訪ねていた。辰夫は周期的に発狂するたちで、当時全快していたが、公費患者というものは然るべき身元引受人がないと退院できぬ。発狂したとき霊感があって株をやり、家の金を持ちだして大失敗したり、母親へ馬乗りになって打擲したりしたから、家族は辰夫の一生を病院の中へ封じるつもりで、見舞いにも来ないのである。