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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页

青空文庫

マッちゃんのお父さんは?」

「知らん。見えなんだ。――その小母さん、おしろいつけて、きれい着物きとった。マッちゃん家へ嫁にきたんとちがうかって、小ツルさんがいうんで」

コトエはちょっとはにかみ笑いをした。

「そうだと、マッちゃんも学校へこられていいけどね」

それからまた十日以上たったが、松江は姿を見せない。手紙はよんだろうかと、ふと心にかげのさす思いで、窓の下を見ていたのだった。ズガニを三匹とった正は、それをあき缶にいれて得々として石垣をのぼってきた。三角形の空地にある杏の木は夏にむかって青々としげり、黒いかげを土手の上におとしている。そのま下にかたまって、岬組の女生徒たちはズガニの勇士を迎え、われがちにいった。

「タンコ、一ぴきくれなァ」

「うちにも、くれなァ」

「わたしにもな」

「やくそくど」

蟹は三匹なのに希望者は四人なのだ。正は考えながらあがってきて、

「食うか、食わんのか」

みんなの顔を見まわした。食うものにやろうと思ったのだ。いち早く小ツルが、

「食う食う。月夜の蟹は、うまいもん」

それをきくと、正はにやりとし、

「うそつけえ、蟹がうまいんは、やみ夜のこっちゃ」