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にじゅうしのひとみ
二十四の瞳
壺井 栄
「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页
今日はもう出勤した片岡先生はきゅうに英雄にでもなったように、引っぱりだこだった。どうだった? の質問に答えて、一日でげっそり頬のおちた彼は、青いひげあとをなでながら、
「いや、どうもこうも、いま考えるとあほらしいんじゃけどな、すんでのことにあかにならされるとこじゃった。稲川は、君が会合に出たのは四、五回じゃというがだの、小林多喜二の本をよんだろうとかって。ぼくは小林多喜二なんて名前もしらん、いうたら、この野郎、こないだ新聞に出たじゃないかって。いわれてみりゃあ、ほら、ついこないだ、そんなことが出ましたな。小説家で、警察で死んだ人のことが」(ほんとうは拷問で殺されたのだが、新聞には心臓まひで死んだと報じられた)
「ああ、いたいた。赤い小説家だ」
若い独身の先生がいった。
「そのプロレタリヤ何とかいう本を、たくさんとられとりました。あの稲川は師範にいるときから本好きでしたからな」
その日国語の時間に、大石先生は冒険をこころみてみた。生徒たちはもう『草の実』とその先生のことを知っていたからだ。
「家で、新聞をとってる人?」
四十二人のうち三分の一ほどの手があがった。