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にじゅうしのひとみ
二十四の瞳
壺井 栄
「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页
それを仁太ほど正直にいったものは、なかったかもしれぬ。彼はかつての日、徴兵検査の係官の前で、甲種合格! と宣言されたせつな、思わず叫んだという。
「しもたァ!」
みんなが吹きだし、噂はその日のうちにひろまった。しかし仁太は、ふしぎとビンタもくわなかったという。仁太のその間髪をいれぬことばは、あまりにも非常識だったために、係官に正当に聞こえなかったとしたら、思ったことをそのとおりいった仁太はよほどの果報者だ。みんなにかわって溜飲をさげたようなこの事件は、近ごろの珍談として大石先生の耳にもはいった。
その仁太は、ほんとうに勝ってもどれると思ったのだろうか。
ともあれ、出ていったまま一本のたよりもなく、その翌年も半ばすぎた。ミッドウェーの海戦は、海ぞいの村の人たちをことばのない不安とあきらめのうちに追いこんで、ひそかに「お百度」をふむ母などを出した。仁太や正は海軍に配置されていた。平時ならば微笑でしか思いだせない仁太の水兵も、いったまま便りがなかった。
仁太はいま、どこであの愛すべき大声をあげているだろうか――。
ひとりを思うとき、かならずつづいて思いだすのは、いつもあのK町のバスの停留所で見た若者たちである。