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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页

青空文庫

『靖国』は妻だけでたくさんでないか」

しかし大吉は、そういう母をひそかに恥じてさえいたのだ。軍国の少年には面子があった。彼は、母のことを極力世間にかくした。大吉にすれば、母の言動はなんとなく気になった。ずっとまえにもこんなことがあった。病気休暇でかえっていた父に、ふたたび乗船命令が出たとき、大吉がまっさきにいきおいづいて、並木たちとさわぎたてると、母は眉根をよせて、おさえた声でいった。

「なんでしょう、この子。馬鹿かしら、ひとの気もしらずに」

そういって額をつんと指さきで押した。ひょろひょろと倒れかかった大吉は、腹を立ててむしゃぶりついてきた。しかし、母の目に涙がこぼれそうなのを見ると、さすがにしゅんとしてしまった。父は笑って大吉をなぐさめた。

「いいよ、なあ大吉。まだ八つや九つのおまえらまでがめそめそしたら、お父さんも助からんよ。さわげさわげ」

しかしそういわれるともう騒げなかった。すると、父は三人の子どもをいっしょくたに抱えて、

「みんな元気で、大きくなれよ。大吉も並木も八津も、大きくなって、おばあさんやお母さんを大事にしてあげるんだよ。それまでには戦争もすむだろうさ」