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にじゅうしのひとみ
二十四の瞳
壺井 栄
「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页
せんせえ またおいでェ……
足がなおったら またおいでェ……
やくそく したぞォ……
あのとき、じぶんのあとへ赴任していった老朽の後藤先生と同じように、じぶんもまた人にあわれまれているとも知らず、いや、大石先生がそれを知らぬはずはなかった。しかし幼い二人の子をかかえた未亡人の彼女もまた、やはり後藤先生と同じく、よろこんで岬へゆかねばならなかったのだ。しかし彼女はいま、近づいてくる岬の村の山々の、夜気に洗われた緑のつややかさを見ると、じぶんもまた若がえってくるような気がした。昔、洋服も自転車も人にさきがけた彼女も、今では白髪まじりの髪の毛を無造作にひっつめ、夫の着物の紺がすりで作ったモンペをつけ、小さな息子に舟でおくられている。昔のおもかげを強いてさがせば、きゅうにかがやきだした瞳の色と、若々しい声であるかもしれぬ。なまいきといわれてけなされた彼女の洋服や自転車は、それがきっかけになってはやりだし、いまでは村に自転車に乗れぬ女はないほどだ。だが二十年近い歳月は、もうだれも若い日の彼女をおぼえてはいまい。
陸地がすうっとすべるように近づいたと思うと、船はもう渚ちかく寄っていた。