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にじゅうしのひとみ
二十四の瞳
壺井 栄
「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页
わが身のあわただしい転変に心をうばわれ、人のことどころではなかったのだ。
K町の富子の父たちの住んでいた家はいまも自転車屋であるが、どんないきさつからか戦争中に店主がかわって、今では、いつ見ても貧相な感じの年とった男が一人、きたない古自転車をいじくっているだけだった。そこでも、あととり息子が戦死したのだ。新らしい自転車など、どこにあるのだろう。だのにミサ子は、しごくかんたんにいった。
「先生、もしも自転車をお買いになるんでしたら、ご相談にのりますから」
それがどういう意味なのか問いかえすひまもなく、大吉の舟はきゅうに速力をまして近よってきた。陸地のかげにはいって、風がなくなったのであろう。大吉は母親にだけにっと笑って、そっぽをむいてすましていた。水棹を押していつもするように舳を砂浜によせ、母親の乗りこむのをまっている大吉の横顔に、いつもとちがったことばがいち早くとんできた。
「さ、坊ちゃん、つかまえてますから、あがってらっしゃい」
おどろいてふりかえる大吉に、こんどは大石先生が笑いかけ、
「大吉、ひと休みしたら?」
だまってかぶりをふる大吉へ、かさねて、