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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页

青空文庫

わかった。ただね、ハイっていえばいいの」

だが、ひとりじぶんの机の前に腰かけると、さて困った、とつぶやいた。というのは、ちょうどその日にあたるあさっての日曜日には、少し早いが八津の年忌をしようと、昨夜大吉たちと約束をしたばかりなのであった。いなりずしでも作ろうというと、

「わあっ!」

と、並木はからだごと歓声をあげ、大吉は大吉で兄らしい思慮をめぐらしていたのである。

「お母さんお母さん。八津の墓にもいなりずしもってってやろう。ぼく、明日学校の帰りにK町のやみ市であぶらげ買ってきとく。お母さんお母さん、あぶらげ何枚たのむん? お母さんお母さん、やみ市でも大豆持っていくん? 何合もっていくん? お母さんお母さん、ぼくたち、今日から瓶で米つこうか――」

こんなときやたらお母さんお母さんとかさねていうのが大吉のくせであった。よほどうれしかったのだ。それをのばすといったら、どんなにかがっかりするだろう。年忌とはいっても、時節がら客をまねいたり、坊さんをよんだりするのではない。いわば、いつも留守番をしたり、送り迎えをしてくれる二人の息子をなぐさめるための計画であり、久しぶりに月給をもらったひそかな心祝いでもあった。