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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页

青空文庫

ミサ子もマスノも、ふたに百合の花の絵のあるアルマイトの弁当箱を買ったと聞いて、松江は母にねだった。

「マアちゃんも、ミイさんも、百合の花の弁当箱買うたのに、うちもはよ買うておくれいの」

「よしよし」

「ほんまに、買うてよ」

「よしよし、買うてやるとも」

「百合の花のど」

「おお、百合なと菊なと」

「そんなら、はよチリリンヤへたのんでおくれいの」

「よしよし、そうあわてるない」

「ほたって、よしよしばっかりいうんじゃもん。マッちゃん、チリリンヤへいってこうか」

それではじめて彼女の母はしんけんになり、こんどはよしよしといわずに、少し早口で、

「ま、ちょっとまってくれ、だれが銭はらうんじゃ。お父つぁんにもうけてもろてからでないと、赤恥かかんならん。それよか、お母さんがな、アルマイトよりも、もっと上等のを見つけてやる」

そういってその場を流されたのだが、松江のためにさがしだしてくれたのが、古い昔の柳行李の弁当入れとわかると、松江はがっかりして泣きだした。今どき柳行李の弁当入れなど、だれも持っていないことを、松江はしっていたのだ。世の中の不況は父の仕事にもたたって、大工の父が、仕事のない日は、草とりの日ようにまでいっているほどだから、弁当箱一つでもなかなか買えないこともわかっていた。