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にかてんいんてんきゅうこうべっけん

二科展院展急行瞥見

寺田 寅彦

「中央美術」1933(昭和8)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,042 字 · 8 页

青空文庫

昼過ぎに上野へ出掛けたが、美術館前の通りは自動車で言葉通りに閉塞されていた。これも近年の現象である。美術が盛んになったのではなくて自動車が安くなったのであろう。

場内は蒸暑さに茹だるようであった。この美術館の設計はたしかに日本の気候が西洋の気候とちがうという事実を知らないか、無視した人の設計である、といつも思うことである。

蒸暑さが丁度大正十二年九月一日の二科招待日を想い出させた。あの日も、午前に狂雨が襲来して、それが晴れ上がってからあの大地震が来た。今日の天候によく似ている。しかし昨朝八丈島沖に相当な深層地震があったのでそれで帳消しになったのかもしれない。あの日は津田君の「出雲崎の女」が問題になっていて、喫茶室で同君からそのゆきさつの物語を聞いているうちに震り出したのであった。その津田君は今年はもう二科には居なくなったのである。

回顧室に這入るとI君に会った。「どうも蒸暑い」というとI君は「絵もアツイ絵ばかりだから」という。

この室のものはさすがになつかしいものばかりである。斎藤豊作氏の「落葉する野辺」など昔見たときは随分けばけばしい生ま生ましいもののような気がしたのに、今日見ると、時の燻しがかかったのか、それとも近頃の絵の強烈な生ま生ましさに馴れたせいか、むしろ非常に落着いたいい気持のするのは妙な