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にじゅうしんぞう
二重心臓
夢野 久作
「オール読物」1935(昭和10)年9、10、11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,188 字 · 129 页
おまけに運動家らしく肩でも振って行けば、誰でも柔道の先生ぐらいに思うて疑う者は居らんからなあ」
「その小切手に指紋はないでしょうか」
「ドッサリ附いている筈だよ。今調査中じゃが、小切手を書いたこの家の主人のもの、受取った犯人のもの、銀行員のものと些くとも三通りは附いている筈だよ。銀行に来た犯人は手袋を穿めていなかったんだからね。笠支配人は到って腰の低い、ペコペコした人間じゃが、流石に鋭いところがあると云って、皆感心しておったよ」
「……ところで……その支配人と女優の呉羽は今どこに居るのですか」
「犯人の星が附いて嫌疑が晴れたので、直ぐに大森署へ来て、署長の手で諒解を得てもらって、二人とも大喜びでそのまま呉服橋劇場へ飛んで行ったのが二時半頃じゃったかなあ。今が劇場の生死の瀬戸際というんでね。何でもこの記事が夕刊に出たら、満都の好奇心を刺戟して劇場が一パイになるかも知れないと云ってね。少々慌て気味で二人とも出て行ったよ」
「少々薄情のようですね。そこいらは……劇場関係の人間はアラユル階級の中でも一番薄情だっていう事ですが……この夕刊を見たら誰でも今夜は休場だと思うかも知れないのに……」