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にじゅうしんぞう
二重心臓
夢野 久作
「オール読物」1935(昭和10)年9、10、11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,188 字 · 129 页
「イヤ。ツイ今しがたここへ来たんだ」
「あら。お兄様ずいぶん日にお焼けになったのね」
「ヤット気が付いたのかい。フフフ。これあ温泉焼けだよ。紫外線の強いトコばかり廻っていたからね。お前は元気だったかい」
「ええ。モチよ。あたし四五日前から神戸に行ってたのよ。そうして今朝、家へ帰ってから、貴方の電報を見てビックリしてここへ来たのよ」
「神戸へ何しに行ったんだい」
「それが、おかしいのよ。六甲のトキワ映画ね。あそこから大至急で秘密に来てくれってね。あのアルプスの主婦の妹さん……御存じでしょう。会計をやってらっしゃる貴美子さん……いつも妾達によくして下さる。ね……あの人に頼まれたもんですからね。貴美子さんと二人で行ってみたらトテモ大変な目に会わされちゃったのよ」
「何か唄わせられたのかい」
「それが又おかしいのよ。着くと直ぐに美容院の先生みたいな人が妾を捕まえて、お湯に入れて、お垂髪に結わせて、気味の悪いくらい青白いお化粧をコテコテ塗られちゃったのよ」
「ハハア。スクリン用のお化粧だよ。それじゃあ……エキストラに雇われたんだね」
「ええ。そうらしいのよ。筋も何もわからないまんまに、美術学校のバンドを締めさせられて、学校の教壇みたような処へ立たされて『蛍の光』