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ごがつのゆいぶつかん
五月の唯物観
寺田 寅彦
「大阪朝日新聞」1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,225 字 · 9 页
この素人学説はたぶん全然間違っているか、あるいはことによると、もう既にこれといくらか似た形でよく知られていることかもしれない。しかし自分がここでこんなことを書きならべたのは別にそうした学説を唱えるためでも何でもないので、ただここでいったような季節的気候的環境の変化に伴う生理的変化の効果が人間の精神的作用にかなり重大な影響を及ぼすことがあると思われるのに、そういう可能性を自覚しないばかりに、客観的には同じ環境が主観的にある時は限りなく悲観されたり、またある時は他愛もなく楽観されたりするのを、うっかり思い違えて、本当に世界が暗くなったり明るくなったりするかのように思い詰めてしまって、つい三原山へ行きたくなりまた反対に有頂天になったりする、そういう場合に、前述のごとき馬鹿げた数式でもひねくってみることが少なくも一つの有効な鎮静剤の役目をつとめることになりはしないかと思うので、そういう鎮静剤を一部の読者に紹介したいと思ったまでのことである。
兼好法師の時代にはもちろん生理学などというものはなかったが、あの『徒然草』第十九段を見ると「青葉になりゆくまで、よろづにたゞ心をのみなやます」