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きょうかのこむすめどうじょうじ
京鹿子娘道成寺
酒井 嘉七
「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,841 字 · 49 页
『師匠、お医師をお呼びいたしますから……』
と、かように、申しまして、部屋を飛んで出、折よく、廊下で出会いました番頭の方に、
『恐れ入りますが、どうか、お医師を、お呼び下さいませ』
と、簡単に、申しまして、師匠の様子を付け加えたのでございました。番頭さんは、
『承知いたしました。あなたは、師匠のご介抱をなさって下さいまし』
と、云いすてて、廊下を走って行かれたのでございました。その時分には、騒ぎを聞きつけた仲間弟子や、一座の方々も師匠の部屋へかけつけて下さったのでございました。しかし、私は、そうした騒動の中にも、と、師匠の傍におかれている三味線と、撥に気を引かれたので御座います。もしも、誰かが躓くようなことでもあれば、大変だ、三味線引きの魂とも、命とも考えられる、三味や撥に、傷がつくようなことがあれば、私は、こう、考えたのでございます。それで、三味線と撥を両手に取って、私の部屋へ持ち運んだので御座います。……確かに、いつも、師匠が使っていらっしゃる三味線と撥とに相違ございません。私の部屋の床の間に置くと、再び、師匠の部屋にとってかえしたので御座いました。