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きょうかのこむすめどうじょうじ
京鹿子娘道成寺
酒井 嘉七
「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,841 字 · 49 页
ご記憶になりますように、あの芝居小屋の裏手入口には、楽屋番の老人が、見張していたのでございます。そうすれば、外部から侵入したものがあるといたしましても、その犯人は、撥のあった楽屋への、唯一の通路――つまり、小屋の裏道に面した、楽屋の窓の、鉄の格子を通りぬけることが出来るもの――
撥を手にしたまま、舞台の天井まで昇ることが出来るもの――
そして、綱をつたって降り、鐘の頂上にある空気ぬきから、内部に入ることができるもの――
手にした撥を、投げつけることが出来るもの――
と、かように考えねばならないでございましょう。そうすれば、当時から行方が分らなくなった猿と、この殺人事件とを結びつけることに、さした不合理もないではございますまいか。それに、この犯人が、子を殺された親猿といたしますれば、色々と、合点のいく節があるではございませぬか。後見をなさっていた、名見崎東三郎さまの陳述にもございました様に、あの
※(歌記号、1-3-28)真如の月を眺め明かさん
のところで、手にした中啓で金烏帽子を跳ね上げた後に、岩井半四郎が、
「綱に……綱に……」
と、申されたと、いうでございましょう。