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ひとのくに

人の国

豊島 与志雄

「随筆」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,761 字 · 16 页

青空文庫

「どうなさいましたの?」と夫人が顔の皺を伸して尋ねかけた。

久保田さんは笑いを止めて、煙草を吹かしながら答えた。

「今日は何だか目出度い日だね。」

八歳になる姪の子が、まん円い眼付でつめ寄ってきた。

「何が! え、叔父ちゃま、何が?」

それをいきなり抱き上げて、久保田さんは子供の遊び仲間にはいっていった。

遊びごとはいくらもあった。じゃんけん、おはじき、影写し、おばーけ、こーこはどーこの細道じゃ、人取り、お馬ごっこ、ダンス………夫人や姪まで笑いくずれたし、お清も見物したし、中頃からは、洋太郎ものっそり勉強室から出て来た。

「お前もはいらないか。」と久保田さんは赤くほてった顔で云った。

「ええ。」と曖昧な調子で答えておいて、洋太郎は火鉢の側にくっついてばかりいた。

その代りに、中学二年生の二男が遊びに加わった。姪の子供達も、平素厳めしい大叔父さんがふざけるのを喜んだらしく、なお一層はしゃぎ出した。それでも久保田さんにはまだ足りなかった。嫁にいってる長女とその三歳になる子とが欠けていた。それを補おうとするように、久保田さんはなお騒ぎ立てた。台所から藁の御鉢入れを持ってきて、その蓋を頭の上でくるくる廻したが、此度は下の深い方を頭からすっぽり被って、それをゆるやかに動かしながら、膝頭で歩き出した。