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じんせいろんノート

人生論ノート

三木 清

下記以外「文學界」文藝春秋社、1938(昭和13)年6月~1941(昭和16)年10月<br>個性について「哲學研究 第五十二號 第五卷 第七册」京都哲學會、寶文館、1920(大正9)年7月1日<br>後記「人生論ノート」創元社、1941(昭和16)年8月11日<br>旅について 不詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,023 字 · 143 页

青空文庫

懐疑について

鳥の歌うが如くおのずから外に現われて他の人を幸福にするものが真の幸福である。

懐疑について

懐疑の意味を正確に判断することは容易でないように見える。或る場合には懐疑は神秘化され、それから一つの宗教が生ずるまでに至っている。あらゆる神秘を払いのけることが懐疑の仕事であるであろうに。反対に他の場合には如何なる懐疑も懐疑であるという理由で容赦なく不道徳として貶せられている。懐疑は知性の一つの徳であり得るであろうに。前の場合、懐疑そのものが一つの独断となる。後の場合、懐疑を頭から敲きつけようとするのもやはり独断である。

いずれにしても確かなことは、懐疑が特に人間的なものであるということである。神には懐疑はないであろう、また動物にも懐疑はないであろう。懐疑は天使でもなく獣でもない人間に固有なものである。人間は知性によって動物にまさるといわれるならば、それは懐疑によって特色附けられることができるであろう。実際、多少とも懐疑的でないような知性人があるであろうか。そして独断家は或る場合には天使の如く見え、或る場合には獣の如く見えないであろうか。

人間的な知性の自由はさしあたり懐疑のうちにある。