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じんせいろんノート
人生論ノート
三木 清
下記以外「文學界」文藝春秋社、1938(昭和13)年6月~1941(昭和16)年10月<br>個性について「哲學研究 第五十二號 第五卷 第七册」京都哲學會、寶文館、1920(大正9)年7月1日<br>後記「人生論ノート」創元社、1941(昭和16)年8月11日<br>旅について 不詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,023 字 · 143 页
その区別ができない場合、ストイックといっても一つの虚栄に過ぎぬ。
虚栄心はまず社会を対象としている。しかるに名誉心はまず自己を対象とする。虚栄心が対世間的であるのに反して、名誉心は自己の品位についての自覚である。
すべてのストイックは本質的に個人主義者である。彼のストイシズムが自己の品位についての自覚にもとづく場合、彼は善き意味における個人主義者であり、そしてそれが虚栄の一種である場合、彼は悪しき意味における個人主義者に過ぎぬ。ストイシズムの価値も限界も、それが本質的に個人主義であるところにある。ストイシズムは自己のものである諸情念を自己とは関わりのない自然物の如く見ることによって制御するのであるが、それによって同時に自己或いは人格という抽象的なものを確立した。この抽象的なものに対する情熱がその道徳の本質をなしている。
名誉心と個人意識とは不可分である。ただ人間だけが名誉心をもっているといわれるのも、人間においては動物においてよりも遥かに多く個性が分化していることに関係するであろう。名誉心は個人意識にとっていわば構成的である。個人であろうとすること、それが人間の最深の、また最高の名誉心である。