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じんせいろんノート

人生論ノート

三木 清

下記以外「文學界」文藝春秋社、1938(昭和13)年6月~1941(昭和16)年10月<br>個性について「哲學研究 第五十二號 第五卷 第七册」京都哲學會、寶文館、1920(大正9)年7月1日<br>後記「人生論ノート」創元社、1941(昭和16)年8月11日<br>旅について 不詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,023 字 · 143 页

青空文庫

心という実体性のないものについて如何にして技術は可能であるか、とひとはいうであろう。

現代物理学はエレクトロンの説以来物質というものから物体性を奪い去った。この説は全物質界を完全に実体性のないものにするように見える。我々は「実体」の概念を避けて、それを「作用」の概念で置き換えなければならぬといわれている。数学的に記述された物質はあらゆる日常的な親しさを失った。

不思議なことは、この物質観の変革に相応する変革が、それに何等関係もない人間の心の中で準備され、実現されたということである。現代人の心理――必ずしも現存の心理学をいわない――と現代物理学との平行を批評的に明かにすることは、新しい倫理学の出発点でなければならぬ。

知識人というのは、原始的な意味においては、物を作り得る人間のことであった。他の人間の作り得ないものを作り得る人間が知識人であった。知識人のこの原始的な意味を我々はもう一度はっきり我々の心に思い浮べることが必要であると思う。

ホメロスの英雄たちは自分で手工業を行った。エウマイオスは自分で革を截断して履物を作ったといわれ、オデュッセウスは非常に器用な大工で指物師であったように記されている。