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にんげんさんすいずまき

人間山水図巻

吉川 英治

「東京 創刊号」1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,343 字 · 21 页

青空文庫

『じゃあ、こんな年をした……この蕭照にでも』

云いかけるうちに、彼の気もちは、二十年も前の少年に似た素朴な在り方に似たものとなっていた。その口から、あらためて弟子入を乞うことばが、われともなく迸り出ていた。

『よいとも、身を入れて、教えよう。好きな道じゃ、わしには何の荷にもなりはせん』

老画師は、彼の師たることを約した。

師弟となって後、蕭照は初めて、老画師の名を知った。李唐、字は古といい、かつては書院の巨匠朱鋭とか李辿などと並び称されたほどな画人であった。

蕭照は、この人を知ることの遅かったのを悔いた。彼は初めからこの老画師に害意はもたなかったものの、また好意の片鱗も持たなかった。むしろ宣和書院の一員と聞いたときは、むかと、唾でも吐きかけてやりたいような衝動すらあった。それというのが、こういう柔弱な文化人共が、徽宗皇帝をとり巻いて、皇帝をしてまるで一箇の画家か美術の保護者みたいなものに仕立て上げてしまったからこそ、ついに北宋を亡ぼしたのである、そして自分たちにいたる迄、こんな流亡の憂目をみるに至ったのだという日頃の憎悪を以て、この李唐をも、頭から軽蔑していたからであった。