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にんげんいす
人間椅子
江戸川 乱歩
「苦楽」プラトン社、1925(大正14)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,920 字 · 30 页
というので、やっと註文を取ったものでした。それ丈けに、私としても、寝食を忘れてその製作に従事しました。本当に魂をこめて、夢中になってやったものでございます。
さて、出来上った椅子を見ますと、私は嘗つて覚えない満足を感じました。それは、我乍ら、見とれる程の、見事な出来ばえであったのです。私は例によって、四脚一組になっているその椅子の一つを、日当りのよい板の間へ持出して、ゆったりと腰を下しました。何という坐り心地のよさでしょう。フックラと、硬すぎず軟かすぎぬクッションのねばり工合、態と染色を嫌って灰色の生地のまま張りつけた、鞣革の肌触り、適度の傾斜を保って、そっと背中を支えて呉れる、豊満な凭れ、デリケートな曲線を描いて、オンモリとふくれ上った、両側の肘掛け、それらの凡てが、不思議な調和を保って、渾然として「安楽」という言葉を、そのまま形に現している様に見えます。
私は、そこへ深々と身を沈め、両手で、丸々とした肘掛けを愛撫しながら、うっとりとしていました。すると、私の癖として、止めどもない妄想が、五色の虹の様に、まばゆいばかりの色彩を以て、次から次へと湧き上って来るのです。