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にんげんかい

人間灰

海野 十三

「新青年」博文館、1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,345 字 · 33 页

青空文庫

青谷技師も午後八時にはいつものように、トラックを運転して帰っていった。赤沢博士の自室には、まだ永く灯りがついていた。しかし十時半になると、その灯りも消えて、本館の方は全く暗闇の中に沈んでしまった。門衛も小屋の中に引込んでしまい、あとは西風がわが者顔に、不気味な音をたてて硝子戸や柵を揺すぶっていた。湖畔の悪魔は、西風に乗って、また帰ってきたのであろうか。

その夜も余程更けた。

この空気工場から国道を西へ一キロメートルばかり行ったところに、例の庄内村というのがある。そこには村でたった一軒の駐在所が、国道に面して建てられてあった。宿直の若い警官は伝説の西風に吹かれながら怪失踪事件のことを考えていた。この事件は例の伝説と共に、県の検察当局へ報告されたのであるが、そのうち誰か適当な人物を派遣するという返事がきたきりで、あとは人も指令も来なかった。全く相手にされない形だった。これが直ぐ死骸が出てくるとか、血痕が発見されるとかであれば、大騒ぎとなるのであろうが、地味な失踪事件に終っているために、犠牲者が六人出ても、何にも相手にされないのだと思うと、彼は庄内村の駐在所が大いに馬鹿にされていることに憤慨せずにはいられなかった。