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にんげんはんえい

人間繁栄

豊島 与志雄

「改造」1924(大正13)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,038 字 · 38 页

青空文庫

水に飛び込んで泳いだり小石原の上に寝転んだりした。川下の彼方に遠く北信の平野が見渡され、更にその向うには、戸隠や妙高などの奇峰が聳えていた。

「山だの川だの平野だの、皺だらけのところを見ると、地球も随分お婆さんね。」と綾子は云って頓狂な顔付をした。

「だって、地球は他の星に比べると、非常に若いっていうじゃないの。」と静子が答え返した。

「どうして。」

「あなたもう忘れたの、地理で教ったじゃありませんか。」

「そう。私忘れちゃったわ。」そして一寸小首を傾げた。「そんならあなたは、人間……人類だわね……人類の命は、地球の命の何分の一に当るかそれを知ってて。」

「知らないわ。聞いたことがあるような気がするけれど……。何分の一なの。」

「私も知らないわ。」

「まあ。」

睥みつけた静子の前を、綾子は笑いながら逃げ出した。大きく牡丹くずしの模様のある単衣を、河原の小石の上に脱ぎすてて、下に着ていた海水着一つで、川の中に飛び込んでいった。

「ねえ、来てごらんなさいよ、鮎が沢山いるから。」

「嘘。」

「ほんとよ。」

やけに水の中をばちゃばちゃやった。

静子はのっそり立上って、水際へ行って覗いてみた。