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ものをこわすのがしょうばいじけん
什器破壊業事件
海野 十三
「大洋」1939(昭和14)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,352 字 · 31 页
もっともその煉瓦のうえには、立派な絨緞が敷いてあったが、それは小さくて、本棚の下は煉瓦だけがむき出しになっていた。
「あれえ――」光枝は、大花瓶を手から離すときに、もっともらしい声をかけておいた。それから手を離したのであるが、なにしろ大きな花瓶のことであったから、かなり派手な音がして破片はあたりに飛び散り、その一つが彼女の脚に当った。とたんにびりびりと灼きつくような痛味である。
「あっ、怪我をした!」チョコレート色の絹の靴下は、見るも無慙に斜に斬れ、その下からあらわに出た白い脛から、すーっと鮮血が流れだした。
(あ、困った)そのとき、厠の扉が、はげしく鳴りひびき、中から旦那様が、茹蛸のような頭をふりたてて出てきた。
「なんじゃ、なんじゃ。やっ、またギンヤか。なにを壊した。えっ、その棚のうえにあった大花瓶か。うーむ、それは……」とたんに旦那様の顔から血がさっと引いた。
「ううむ。――」と、旦那様は急にそわそわして、壊れた花瓶には目もくれず室内をぐるっと見まわした――が、そこで胸を拳でとんとん叩きながら、
「ああ、おどろいた」と呻くようにいった。
そこへ責任者のお紋をはじめ、お手伝いさんの一隊がばらばらと駆けつけた。