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かたきうちきょうだいがさ
仇討姉妹笠
国枝 史郎
「講談雑記」1936(昭和11)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,178 字 · 159 页
……それだのにこのお方死なれるのかしら?)
月の位置が移ったからであろう。梢から射していた月光が、円い巨大な柱のように、あやめと主税との二人の体の上へ、蛍草の色に降りて来ていた。その明るい光の輪の中では、産れて間もないらしい細い羽虫が、塵のように飛び交っていた。そうして明るい光の輪の底には、白芙蓉のように蒼白い、彫刻のように端正の、主税の顔が弱々しく、眼を閉じ口を閉じて沈んでいた。
(こうしてはいられない)
にわかにあやめは気がついて思った。
(町へ行って駕籠を雇って、主税様をお屋敷へお送りしなければ)
そこで、あやめは立ち上った。
この時から半刻ばかり経った時、龕燈の光で往来を照らしながら、老人と少年と女猿廻しとが、秋山様通りの辺りを通っていた。昨夜御用地の林の中にいた、その一組に相違なかった。
お屋敷町のこの辺りは、この時刻には人通りがなく、犬さえ歩いてはいなかった。武家屋敷の武者窓もとざされていて、戸外を覗いている人の顔など、一つとして見えてはいなかった。で、左右を海鼠壁によって、高く仕切られているこの往来には、真珠色の春の夜の靄と、それを淹して射している月光とが、しめやかに充ちているばかりであった。