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いまどしんじゅう

今戸心中

広津 柳浪

「文芸倶楽部」1896(明治29)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,688 字 · 74 页

青空文庫

この上臂突きにされて、ぐりぐりでも極められりゃア、世話アねえ。復讐がこわいから、覚えてるがいい」

「だッて、あんまり憎らしいんだもの」と、吉里は平田を見て、「平田さん、お前さんよく今晩来たのね。まだお国へ行かないの」

平田はちょいと吉里を見返ッてすぐ脇を向いた。

「さアそろそろ始まッたぞ。今夜は紋日でなくッて、紛紜日とでも言うんだろう。あッちでも始まればこッちでも始まる。酉の市は明後日でござい。さア負けたア負けたア、大負けにまけたアまけたア」と、西宮は理も分らぬことを言い、わざとらしく高く笑うと、「本統に馬鹿にしていますね」と、吉里も笑いかけた。

「戯言は戯言だが、さッきから大分紛雑てるじゃアないか。あんまり疳癪を発さないがいいよ」

「だッて。ね、そら……」と、吉里は眼に物を言わせ、「だもの、ちッたあ疳癪も発りまさアね」

「そうかい。来てるのかい、富沢町が」と、西宮は小声に言ッて、「それもいいさ。久しぶりで――あんまり久しぶりでもなかッた、一昨日の今夜だッけね。それでもまア久しぶりのつもりで、おい平田、盃を廻したらいいだろう。おッと、お代り目だッた。おい、まだかい。