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いまどしんじゅう
今戸心中
広津 柳浪
「文芸倶楽部」1896(明治29)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,688 字 · 74 页
ちょいと見たところは、もう五六歳も老けていたら、花魁の古手の新造落ちという風俗である。
呆れ顔をしてじッと見ていた小万の前に、吉里は倒れるように坐ッた。
吉里は蒼い顔をして、そのくせ目を坐えて、にッこりと小万へ笑いかけた。
「小万さん。私しゃね、大変御無沙汰しッちまッて、済まない、済まない、ほんーとうに済まないんだねえ。済まないんだよ、済まないんだよ、知ッてて済まないんだからね。小万さん、先日ッからそう思ッてたんだがね、もういい、もういい、そんなことを言ッたッて、ねえ小万さん、お前さんに笑われるばかしなんだよ。笑う奴ア笑うがいい。いくらでもお笑い。さアお笑い。笑ッておくれ。誰が笑ッたッて、笑ッたッていい。笑ッたッていいよ。察しておくれのは、小万さんばかりだわね。察しておいでだろう。察しておいでだとも。本統に察しがいいんだもの。ほほほほほ。おや、名山さん。千鳥さんもおいでだね。初緑さん。初紫さん。此糸さんや、おくれなその盃を。私しゃお酒がうまくッて、うまくッて、うまくッて、本統にうまいの。早くおくれよ。早く、早く、早くさ」
吉里はにやにや笑ッていて、それで笑いきれないようで、目を坐えて、体をふらふらさせて、口から涎を垂らしそうにして、手の甲でたびたび口を拭いている。