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けさのゆき
今朝の雪
宮本 百合子
「婦人朝日」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,936 字 · 24 页
峯子はとき子の名にふれたりしたのを悔やんだ。青年の口調でとき子がその銀行で追々古参株になろうとしているということが、あながち愉快ばかりを与えているのでもない事情も察しられた。
少しずつ、少しずつ話が具体的になって行って、峯子は今は地方に転勤している兄の手を通して正二が勤めていた製粉会社関係の仕事を、とき子は友達が経営している機械工場だの諸官庁だのの仕事を合わせ、邦文、英文、独文タイプライター事務所の計画が進められた。後からとき子の友人の春代も相談に加わることになり、三人は夜々を細心な計算や事務所の名をきめることやに費した。速記とタイプの仕事は、社会全般の大きい変化につれてどっさりになっているのであった。
さっきから歌うように鳴り出していた雨樋は、いよいよ旺な雪解水が注ぎこみ、時々ゴボゴボゴボとむせび泡立つ音を立てている。
キラリと峯子の顔の真上へガラスを反射させて、向いの活版屋の二階が乱暴にあいた。同時にそれが峯子たちの部屋の空気を煽ったとでもいうようにドアが勢いよくひらかれた。
「こんにちは」
場所がらにない華やいだ声で峯子たちは、びっくりした顔を入口へ振り向けた。