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しゃぼてんのはな

仙人掌の花

山本 禾太郎

「猟奇」1932(昭和7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,282 字 · 19 页

青空文庫

この手紙は今、自殺を思った閑枝の心に、大きなすき間をつくってしまった。も一度繰り返して読んでみよう、と思っているところへ、姉が上って来た。

「いつの間に、帰って来たの、あまり長く潟のそばに居ては、よくないと思って心配していたの」

姉は、窓のガラス障子を細目に開けて、押入れから、夜具を出しながら、

「明日、伊切の浜へ行かない、義兄さんもお休みだから、なかなかいいとこよ」

閑枝は、手紙をそっと机の下に押込みながら、

「ええ、行ってもいいわ、だけれどもまた此前見たいじゃ………」

「なにね、もう大丈夫よ、病気だってよほどよくなっているんだし、それにあすこには自動車があるしするから………」

「義兄さん、今晩はかえらない」

姉は、部屋の片隅にふとんを敷いて了うと、火鉢のそばに座りながら一寸そこの置時計を眺めて、

「今朝金沢へ行ったので八時頃には帰るって………、もう帰ってくる時分よ」

停車場には、今電車が着いたらしく、四五人の、人の足音が入りみだれて、家の前を通ったが、すぐにまた、もとの静かさにかえった。兄が今の電車で帰ったらしく、くせのある静かな咳払いが聞えたと思うと、二階へ上って来た。