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イタリアのことう
伊太利亜の古陶
宮本 百合子
「中央公論」1924(大正13)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,477 字 · 31 页
三
「沼津あたりはさぞおよろしゅうございましょうねえ、上つがたのお邸さえございます位ですもの。――年をとりますと不相応な我ままが出まして、宿はどのように鄭重にしてくれましても何処となし落着のないものでございます……」
子爵夫人は、蒼白い気の優しい顔にぼんやり同情とも困惑ともつかない表情を浮べた。彼女は暫く黙っていたが程なく独言のように呟いた。
「若し……」
みや子の夫人に向った一方の耳はむくむくと大きくなって行くように鋭く次の言葉を待ち受けた。が、みや子は、凝っと何も心づかないらしい静粛を守って睫一つ戦かせなかった。夫人はつづけては何も云わない。みや子のうつむいた前髪はこの時彼方にいる良人に向って、
「今何か云い出してはいけませんよ。夫人は私共に大事なことを思いつけかけていらっしゃるのです」
と警戒しているように見えた。
三
婦人達のかたまっている長椅子から十歩足らず隔っていた日下部太郎は、彼女達の間に、どんな微妙な外交的黙劇が行われているか知るどころではなかった。
たといみや子が夫婦間の特別な敏感さを利用して熾に暗号を送ったとしても、その時の彼は、頼りにならない無反応の冷淡さを証拠だてるに過なかったろう。