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イタリアのことう

伊太利亜の古陶

宮本 百合子

「中央公論」1924(大正13)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,477 字 · 31 页

青空文庫

「さようでございましたか。……」

みや子は、何故か二三度せわしく瞬きをした。今迄ぼんやり部屋中を見廻していた彼女の瞳の奥に活々と集中した輝きがとぼった。彼女は愛嬌よく訊ねた。

「失礼でございますが、あの沼津の方はどなたかの御懇望でございますか?」

夫人は、ひとりごとのように説明した。

「いいえ、子爵の気まぐれでございます。まるで眺望がないから陰気でいやだと申しましてね。近頃おはやりの土地開放とやらの真似事でございましょう」

二人は声を合わせてそっと笑った。

「お宅では? 定めしいいところにあれでございましょう」

夫人はみや子に問いかえした。

「まあ私共などはそれどころではございません」

思わず地声で高く言ったみや子は、紛らすように顔をそむけて咳払いをした。彼女はむせたような、ややわざとらしい低声で云った。

「日下部も元気なようでも年でございますから、近頃はよく日曜にかけて気楽に暖い海辺にでも参りたいと申すのでございますが――矢張り手頃なところはもうちゃんと何方かがお約束でございましてね」

「本当に――お国元ももう少々近うございますとよろしいのですが」

みや子はやがて、空想に浮ぶ沼津の風光の美しさに我知らず恍惚したように呟いた。