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さど
佐渡
「公論」1941(昭和16)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,270 字 · 23 页
用事の無い旅行はするものでない。この相川で一泊する事にきめた。ここでは浜野屋という宿屋が、上等だと新潟の生徒から聞いて来た。せめて宿屋だけでも綺麗なところへ泊りたい。浜野屋は、すぐに見つかった。かなり大きい宿屋である。やはり、がらんとしていた。私は、三階の部屋に通された。障子をあけると、日本海が見える。少し水が濁っていた。
「お風呂へはいりたいのですが。」
「さあ、お風呂は、四時半からですけど。」
この女中さんは、リアリストのようである。ひどく、よそよそしい。
「どこか、名所は無いだろうか。」
「さあ、」女中さんは私の袴を畳みながら、「こんなに寒くなりましたから。」
「金山があるでしょう。」
「ええ、ことしの九月から誰にも中を見せない事になりました。お昼のお食事は、どういたしましょう。」
「たべません。夕食を早めにして下さい。」
私は、どてらに着換え、宿を出て、それからただ歩いた。海岸へ行って見た。何の感慨も無い。山へ登った。金山の一部が見えた。ひどく小規模な感じがした。さらに山路を歩き、時々立ちどまって、日本海を望見した。ずんずん登った。寒くなって来た。いそいで下山した。