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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

三、金ピカの赤井さん

併し、その結果は、波多野警部の検べ上げた以上の収穫は何もなかった。問題の窓ガラスは布で拭きとった形跡があり、指紋は一つも出なかった。窓外の地上に落散っていたガラスの破片にさえ一つの指紋もなかった。この一事を以てしても、賊が並大抵の奴でないことが分るのだ。

最後に、警部は部下に命じてさっき摺鉢でふせて置た足跡の型をとらせ、大切相に警察署へ持帰った。

騒ぎがすんで、一同兎も角も床についたのは二時頃であった。私は甲田君と床を並べて寝たが、両人とも昂奮の為め寝つかれず、殆ど一晩中寝返りばかりうっていた。その癖、私達は、なぜか事件については一言も話をしなかった。

三、金ピカの赤井さん

翌朝、寝坊な私が五時に床を出た。例の不可解な足跡を、朝の光で見直そうというのだ。私も仲々の猟奇者であった。

甲田君はよく眠っていたので、なるべく音を立てぬ様に、縁側の雨戸をあけ、庭下駄で洋館の外へ廻って行った。

ところが、驚いたことには、又しても私の先客がいる。やっぱり赤井さんである。いつも私の先へ先へと廻る男だ。しかし、彼は足跡を見てはいなかった。何だか知らぬが、もっと他のものを見ている。