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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
ヤレヤレ又しても赤井さんである。
彼は往来に面した、有福らしい一軒のしもた家の格子をあけて出て来たが、遠方に私の姿を認めると、何ぜか顔をそむけて、逃げる様にスタスタと向うへ歩いて行く。
そうされると、私も意地になって、足を早めて赤井さんの後を追った。彼れの出て来た家の前を通る時、表札を見ると「琴野三右衛門」とあった。私はそれをよく覚えて置いて、なおも赤井さんの跡を追い、一丁ばかりでとうとう彼に追いついた。
「赤井さんじゃありませんか」
と、声をかけると、彼は観念したらしく振向いて、
「ヤア、あなたもこちらへ御出ででしたか。僕も今日は結城さんをお訪ねしたのですよ」
と、弁解がましく云った。琴野三右衛門を訪ねたことは云わなかった。
ところが、そうしてこちらを向いた赤井さんの姿を見ると、私はビックリしてしまった。彼は錺屋の小僧か表具屋の弟子みたいに、身体中金粉だらけだ。両手から胸膝にかけて、梨地の様に金色の粉がくっついている、それが夏の太陽に照らされて、美しくキラキラ光っているのだ。よく見ると、鼻の頭まで、仏像の様に金色だ。訳を尋ねても、「ナニ一寸」と曖昧な返事をしている。