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しゅんかん
俊寛
倉田 百三
「新小説」1919(大正8)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页
清盛だって鬼神でもあるまい。あのさびしい歌を読んで心をうごかさぬことはあるまい。あゝ。われわれがこの孤島でどんな暮らし方をしているかを知ったら。どんなにふるさとをしとうているかを知ったら。むかえの使いを送ってくれまいものでもない。
成経 しかしそれはあまりにおぼつかない希望だ。
康頼 神を疑ってはいけません。熊野権現は霊験あらたかな神でございます。これまでかけた願の一つとして成就しなかったのはありません。
成経 しかしここは紀州ではなし、那智の滝もないではありませんか。
康頼 神はどこにでもいられます。わしがあの奥深い森を選んだのは、あたりの様子がどことなしに那智の御山に似ているからです。あれは本宮、これは新宮、一の童子、二の童子とかりに所を定め、谷川の流れを那智の滝と思い、そこに飛滝権現を形ばかりにまつりたてまつったのでございます。どんなにさびしい孤島に流されても、拝する神のないのは堪えられません。あの鬼のような清盛だって厳島明神に帰依しているではありませんか。
成経 (あざけるように)ではわしは天魔でもまつりましょうよ。そしてあの清盛を呪ってやりましょう。