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しゅんかん

俊寛

倉田 百三

「新小説」1919(大正8)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页

青空文庫

成経 (顔をおおう)

俊寛 あなたの父を鼠のごとく殺した清盛のところへ、あわれみを乞うて帰る気か。

成経 (あたりをはばかりつつ)わしは復讐することができる。都へ帰れば機会をうかがうことができる。

俊寛 (不安に堪えざるごとく、康頼に)康頼殿、今はわしの頼みはあなた一人となりました。わしはあなたの愛と誠実とに依頼する。あなたはながい間どんなにわしを愛してくださったろう。あなただけはわしを見捨ててくださらぬだろう。

康頼 私はあなたの運命を思えばたまらない気がする。あなたはじつに苦しかろう。

俊寛 わしは恐ろしい。わしのそばにいつまでも離れずにいてください。

康頼 わしはあなたをあわれむ心でいっぱいだ。あなたの今の地位の恐ろしさは言い表わす言葉もないほどだ。

俊寛 (哀願に満ちたる調子にて)あなたはわしを見捨ててはくださらぬだろう。

康頼 わしはあなたを見捨てて去るには忍びない。

俊寛 ではわしとともにこの島に残ってくださるのですね。

康頼 (力なく)わしはそうしたい。そうしなければならぬと思う。けれども――

俊寛 (不安の極度に達す)わしはあなたの信心に依頼する。

康頼 迎えの船の来たのは熊野権現の霊験と思われる。