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しゅんかん

俊寛

倉田 百三

「新小説」1919(大正8)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页

青空文庫

俊寛 九州まで! いかなる手段をつくしても! 九州まで着けば身を忍ばして都に入り、時機をうかがうことができる。

有王 たとえ九州まで帰り着いても、清盛が草をかきわけても捜し出さずにはおきませぬ。

俊寛 ただ一太刀! わしの憎みを清盛の肉にただ一太刀刻みつけるために!

有王 (つくづくと俊寛を見る)あゝご主人様何ごとも時でございます。われわれの運は去りました。

俊寛 (倒れんとす)

有王 (俊寛を支えあわれみに堪えざるごとく)お気をたしかに! 栄枯盛衰は人間の力に測りがたき天のさだめでございます。今時を得て全盛の極みにある平家の運命もいつかはきっとつきる時が来るでしょう。

俊寛 (夢中にて)残っている! まだわしの腕に力が残っている。

有王 一人や二人の力で刃向こうても、今時を得ている平氏をくつがえすことはできませぬ。天が平氏を滅ぼすのを待ちましょう。

俊寛 清盛よ、お前がわしに課した苛責の価をお前に知らさずにはおかぬぞ!

有王 あの清盛の前代未聞の暴逆が天罰を受けずにはおきますまい。

俊寛 今わしが流すこのあぶらのような涙をお前の歓楽の杯に注ぎ込んで飲まさずにはおかぬぞよ。