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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

番頭は、社会主義者という字にカッコをつけて、自分の意のあるところを千恵造に伝えようとした。が、結局それは思い過しだった。手紙を見た千恵造は、そのカッコを強調の符号だと思った。だから、あるいは平気で読み流してしまったかも知れないその言葉にひどく拘泥ってしまい、そのため、姪の縁談の邪魔という肝腎の事柄に気をとめなかった。賀来子の方がこの事を気にした。彼女は、自分のために貴方が大事な姪の幸福をさまたげるのなれば、自分は犠牲になるといった。

「どうせ、私は不幸の性来ですよって、覚悟はしてます」

その心根がいじらしいと思った千恵造は益々賀来子と別れがたく思った。賀来子にはその出生以外に何の欠点もない、その様な女を犠牲にしてまで小生は姪の世間的幸福を願わぬ積りだ、というような意味のことを例の煮え切らぬ調子で返事に書いた。愈々彼は社会主義的色彩を帯びて来た訳である。

「あいつの為に千満子の縁談は目茶苦茶になるやろ」

と政江は叫んだ。果して彼女の予言の通り、破談になったのは前述の通りだ。その原因に就て、いろ/\取沙汰があったのも前に書いた。千恵造のことが原因だという政江の言い分は、何かこじつけめいているが、周囲の人々は承認せざるを得なかった。