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ぞくしゅう
俗臭
織田 作之助
「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页
やがて彼女が娘達に言ってるらしい声が聞えて来た。
「皆んな、良う聞いとくれや。お母さんが今お父さんに如何いいわれたか、聞いとくれ。お前達は皆女子や。女子は嫁に行ったら弱いもんやぜ。お母さんが良え手本や。私は出て行け言われたよって出て行きます。皆んなはお母さんと一緒に行くか、それとも、此処に居るか。えゝ? 如何いする?」
伝三郎の妻はさすがに政江を賢明だと思った。彼女は自分に子供の出来ぬのを今更ながら悲しく思った。娘達は、返答の仕様がなかったから、母親を連れてぞろ/\部屋に戻って来た。
その時、もう権右衛門の姿は部屋に見えない。さすがに娘の手前恥しかったのか、家を飛び出して、憂鬱な散歩を始めていた。
残された人々はこの場を収拾しなければならぬ。さしずめ年長者の市治郎に先ず発言権が与えられた。が、彼は恐しく無口な人である。市治郎の妻はしきりに夫の脇腹の辺りを小突くのだが、彼は冥想に耽っていた。言うべき言葉を探しているのだ。歯がゆい程である。が、かつて彼の無口な性質が非常に珍重されたことがある。――五年許以前のことだが、某官省の不用銅鉄品払下げの見積の時、市治郎が贈賄の嫌疑で拘引されたことがある。