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ぞくしゅう
俗臭
織田 作之助
「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页
三
ニキビの出ている寿子だけは、アストリンゼントをつけた。
三
その元旦の夜、権右衛門夫婦はいつ迄も眼覚めていた。
権右衛門が便所に立つと、政江はその後に随き従い、権右衛門の手に手洗水を掛けた。月が凍っている様に白かった。
「こら、どうも。大きに、御苦労はん」
権右衛門は内心照れて言ったが、彼の言葉は照れてる様には聞えぬ。政江にとって頼もしい所以である。手洗水を掛けるために便所の外で待っているなぞ、ついぞした事がなかった。婦人雑誌で学んだことである。その応用が、この様に自然に運ぶことは、彼女の趣味に適っているのだ。意識的に示す媚態で赧くなったりするのは自他ともに嫌いである。また、助産婦見習時代から今日まで左様なことはなかった。権右衛門が又、彼女の媚態にはにかむ様な人でない。いわば堂々とそれを受ける、その態度も政江の心に適っている。例えば新婚初夜に於ける権右衛門の態度だ。床入りの盃が済んだ後、権右衛門は厳然として、言った。
「わしの様な者の所へ縁あってとはいいながら、よく来て呉れた。いま、わしは六百円しか財産がない。わしは、どうしても十万円の金を作ってみせる。