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ぞくしゅう
俗臭
織田 作之助
「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页
四
妹は産婆をしていたが、これも廃業して、歯医者と結婚した。その時の祝いに、彼女は千円もするダイヤの指輪を贈った。その他、以後楽しい事ばかりである。……
……その夜、権右衛門夫婦は明け方まで眠らなかった。話すべきことも多かったし回想が次から次へと果てしなかったからである。
四
千恵造夫妻に子供の無かったことが、何より好都合だった。彼等は別れた。
児子兄弟合資会社の一員に加えるという兄の志を多としたのだ。弟は感激の余り、賀来子を離縁した訳だ。政江の期待通りだった。が、慾に目が眩んで離縁したというのは少し酷だ。少くとも、その決意を固めた瞬間の千恵造には、慾得の観念に拘泥する余地はなかった。このことは、児子家の使としてはる/″\朝鮮まで出掛けた船司船造がよく知っている。
千恵造は泪を流して船司にいったのだ。こんなにまで、兄が自分のことを思っていてくれたとは知らなかった。もはや、姪の結婚の邪魔をする気はない――と。船司はもと権右衛門等の出生地、湯浅村の村長をしていた男だが、今は落ちぶれて、生命保険の勧誘員をしている。人に欺されて、田地家屋までとられてしまったというだけあって、善良な性質の男に違いない。